子どもの運動器疾患

神経が傷つくことによりひき起こる痛み


「片足立ちができない」「両腕が真っ直ぐに上がらない」「しゃがみ込みができない」「手首が十分に曲がらない」

今、子どもたちの体に異変が起きています

 『ロコモティブシンドローム』という言葉を聞いたことはないでしょうか。
  日本語で、『運動器症候群』。骨や関節、筋肉などの運動器(ロコモティブオーガン)の障害によって移動機能の低下をきたした状態のことです。これまでは主に高齢者の症状と考えられてきましたが、近年こうした状態が子どもたちにまで広がっていると指摘されています。


「ロコモ予備軍」の子ども

 近年、昔では考えられない様な怪我をする子供の患者が増えています。体育の授業で跳び箱を飛ぼうとして両手首を骨折する、遊具から降りようとして足首にヒビが入る、転んで手をつけずに頭を打つ、バランスを崩して手や足をついたときに、手首や足首が十分に反り返らず骨折してしまう。つまり、身体を動かすために必要な「運動器」の基本的な動作ができていない子供が増えているのです。
 「運動器」の基本的な動作とは、手首が反り返る、しゃがみ込む、片足で立つ、手をまっすぐに上げる、前屈で床に手がつくなどです。子どもの身体は本来は非常に柔らかく、いろんな動作ができるはずです。しかし、これらの動作がきちんとできていないことで、少しの事で骨折をしたり、日常の動作がぎこちない状態の子供が増えています。

 原因として挙げられるのは、ひとつは子どもたちの運動量の低下です。昔は子どもは学校が終わると外で遊ぶというのが基本でしたが、今やゲームやスマホ、ネットなどが主流で一週間に一時間も運動しない子が80%近くにも上ります。特に都会育ちの子供は遊ぶ場所も限られており、常に大人が見ている状態でないと遊ばせられない環境にもなりました。こうした中での絶対的な運動量の低下によって、日常生活の中での子供たちの動きの多様性が減っているが現状です。
 一方で、一週間で7時間以上運動する子供がいます。野球やサッカーなどのスポーツに打ち込み、本格的なトレーニングを子供の頃から長時間行っている子供達は、一見すると高い運動能力を持っていると見られます。ところが、同じスポーツを子供の頃から過度にやることで、同じ筋肉や関節しか使わなくなります。同じ動作ばかりを繰り返すことで、一部分の筋肉が過度についてしまい、柔軟性や運動機能のバランスが損なわれる可能性があるのです。
 このように子供の運動機能の異変は、二極化した子供の運動習慣によってもたらされています。運動不足によっておきる障害、運動が多すぎておきる障害。本格的スポーツに打ち込むか、そうでない子はほとんど運動をしない、という現代の子供達の状況がもたらす異変なのです。

 さらに、これらの子どもたちはそのままにしておくと、立つ・歩く・のぼるなどの能力が低下する『ロコモティブシンドローム(運動器症候群)』になってしまう可能性があります。もともとロコモティブシンドローム(以下ロコモ)は、高齢者が寝たきりや介護が必要になる原因の一つです。たとえば、小学生のうちから五十肩のように肩の関節が固かったり、ちょっとしたことでバランスを崩して骨折してしまったりするような子どもが、そのままの状態で大人になったとき、ロコモ対策が必要な年齢層に達しても、十分な運動を行えず要介護になるリスクが高まるのです。
 こうした状況を踏まえ、昨年児童の健康診断に関する法律が改正され、平成28年4月1日から学校にて「運動器検診」が実施されることになりました。

どのように改善するか

 怪我が怖いからと外遊びをさせなかったり、単純に遊び場が減ったことや、親の時間の都合で遊ばせられなかったりというケースもありますが、子どもの健全な成長には適度な運動は不可欠です。鬼ごっこや遊具遊び、縄跳びや石蹴りなど、それぞれに様々な動きがあります。身体の使い方、動かし方、関節の動きをどう連動させればいいかというのも、遊びを通して自然と学んでいくものなのです。失敗したり転んでしまって怪我をすることもあります。しかし、そうして小さな失敗を経験することで、大きな怪我を避ける身体能力や判断力が身に付きます。こうした経験が不足すると、転んだ時に手が出ずに頭から落ちて大怪我をしてしまったり、飛んできたボールの距離感やスピードが分からずただぶつかって怪我をしてしまう。つまり、危険を察知したり、回避したりする能力が身に着かないのです。
 子どもにとって外遊びは非常に大切です。我々が子ども時代には意識せずに自然に毎日やっていた遊びが、現代の子供達は親が意識してさせないと経験できない環境です。怪我をしたら危ないからとやめさせることで、より大きな怪我をしやすい環境を作ってしまうという悪循環に陥らないように、色々な遊びから体の使い方を覚えさせることを意識してください。



運動の多様性とオーバーユース

 身体は動かしていればいいというものではありません。一種目を過度にやりすぎると、一つの動作を繰り返すことで、同じ筋肉、同じ関節を使いすぎてしまう。そうすると、様々な障害が生まれます。
 当クリニックにも、小中学生で野球肘に悩まされている子供や、サッカーの練習で足の甲やすねを疲労骨折した子どもがきたことがありますが、これらはいわゆる「使いすぎ(オーバーユース)」が原因のスポーツ障害です。オーバーユースのもっとも大きな要因は同じ動作の繰り返しです。長い練習時間や連戦、連投などにより野球肘やテニス肘、疲労骨折などのオーバーユース疾患が起きます。
 子どもの身体は大人のミニチュアではありません。子どものうちは色んなスポーツや遊びを経験させ、バランスよく体を動かすことが大切です。特に成長期の場合、一番最初にできるのが骨です。筋肉や靭帯などは骨ほど急速には伸びません。身長が伸びている時期は骨も柔らかく、そうした時期に激しい運動をし過ぎることで骨を痛めたり、軟骨を痛めたり、機能障害を起こしてしまいます。
 オーバーユースの予防にはまずはバランスよく身体を使うこと。子どものうちは間口を狭めず、特にいろんなスポーツや遊びを経験させることが大切です。そして休息という「時間」も必要です。人間の体は修復する力があります。しかし、常に使っている状態では、この修復力が追いつきません。



 近年は指導者の知識の向上により、成長期におけるオーバーユースの成長障害や外傷は比較的減少してはいます。しかしながら、本格的なスポーツをしている子どもたちにとってコーチ・監督の言う事は逆らえないといった状況は昔から変わらない様です。医学的根拠に基づき、怪我の完治までのメニュー作成ができてない指導者のもとで治らないまま練習したり、どうしても目の前の結果が欲しくて試合に出場する。その結果一つの故障が他の故障を引き起こしていき、競技が続けられなくなるような障害につながる場合も少なくありません。
 当院にも子供の頃から選手を目指してスポーツに取り組んでいたものの、怪我の治療を疎かにして、その結果競技を続けられなくなり、大学のスポーツ推薦が取り消しになってしまったという経験をしたスタッフがいます。オーバーユースを治療するには休ませることが最も必要で、競技を行いながらの治療はできません。子どもの将来の為にもそのことをきちんと理解して、本人・親・指導者は決断してもらいたいものです。

 中高年になってからのロコモを防ぐ一番方法は、若いうちから運動する習慣をつけることです。外遊びをしない最近の子供たちは、早期からロコモに陥る確率は高くなります。積極的に外遊びや適度な運動を心掛けましょう。
 もし「しゃがむ」「かがむ」などの基本的な動作の際に痛みがある場合や、日常生活に支障が出るほど動きが悪いという場合は、早めに整形外科を受診しましょう。